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NO. 1 4 4 喫茶店の日 4 / 1 3

4月 13日( M. 21 1888 ) 日本初・コーヒー専門店「 可否茶館 」 東京・下谷黒門町に 開店。

牛乳が 2銭、 もりそば 1銭、 コーヒーは 1銭5厘。(未確認)

春のある日、夕刻、都会の喧騒を逃れた出先で 雨。

つたの這う 古びた小さな喫茶店。

誰もいない 

片隅の窓辺の椅子へ

うれしいことにストレート有り 「マンデリン」を。

香ばしいゆげの波が ビロードの肌触りの如く 鼻腔をなでる。

琥珀色した飲み物を 待ちかねていた喉へ そおっと通してやる。

壁には いかにも古そうなボンボン時計

四つの 大きな丸と小さな丸でデザインされている

たしか「 四つ丸 」とか「 だるま 」とか 呼ばれている奴だ。

アメリカの イングラハム社か ウオーターベリー社か。

「 おおきな 古時計 」が 頭を横切る。

ひとり 若葉色のコートに 身を包んだ 若い娘さんが

ドアベルを心地よく「チリン」と 一回ならして入ってきた。

心の中で「いらっしゃいませ」と言いつつ 反対側の片隅の椅子へと向かう うしろ姿を 目で追った。

黒髪の長いポニーテール 左右に小さく揺れるたび

板張りの床 こつこつと返事をする。

手持ちの白いゆきやなぎ 透明のラップから落ちるしずくが

等間隔に彼女のあとを追っている。

まるで「 はやく あったかいコーヒーで 体をあっためなさいよ 」

と せかさんばかりに。

出されたコーヒーに しばらく手を伸べず

潤んでいるよな黒い瞳で あまりまばたきせずに

けぶる景色を みつめている。

{ どんな思いに ふけっているんかなぁ }

{ 彼女もコーヒーはストレートやろか

マンデリンやったらいいんやけどなぁ }

なんて 意味のないことを ぼんやり思いながら

小生( しょうせい )も外に目をやる。

ガラスが気になる。

けぶる景色が 揺らいで見えるのだ。

大好きな「ゆらぎガラス」

マロニエも ときおり通り過ぎる人々も「揺らいでいる」

{ なんか 春やなぁ }

マロニエの若葉が

優しく温かくけぶる春の雨に打たれながら 踊り、

みずたまりに浮かぶ葉っぱも踊る。

シンクロナイズド スイミング。

そろそろ 夕闇が 街灯(がいとう)に 灯(ひ)ともしころ

春のやわらかい日差しを たっぷり楽しんだ人たちが 後姿を見せる。

ひとびとを喜ばせた春の太陽も、

「またあしたね」と言いながら 西の空へ帰ってゆく。

やがて 夜のとばりが「今日」をつつみこむ。

彼女が 心地よい靴音をさせながら ドアへ向かう。

行く船のうしろにひろがる波のごとく 

若葉色の香りが 広がっていくように思えた。

そしてまた ドアベルが 1回 「チリン」と ひびき

宵やみのカーテンの中へと とけこんでいった。

さて 春雨(しゅんう)も 小粒になったようだ。

もう一杯 マンデリンの香りを鼻の奥へ 溜めこんで

ゆらぐ すがすがしくも やさしい景色の中へと

とけこむことにしよう。

花言葉

「ゆきやなぎ」==「愛らしさ」

「マロニエ」===「博愛」

== 写真 3枚 ==

3枚とも とある喫茶店

・・・ええっ、彼女は ま・ぼ・ろ・し・・・だった


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